「同じ空の下で…」
捉えられた腕の力が、緩んでいくと、そのまま自然に私の手をとるようにして、エスコートとでも言えるような優しさに溢れた手付きで、高梨は私の手を引いて歩いた。
ロビーを抜け、エレベーター前につくと、やっと手の力も緩んだ。静かに、高梨の顔を見上げる。
「あのぅ…。」
「決断力に欠けますね、艶香さんは。」
「そんな事はっ!!」
高梨の手は、柔らかくて少し冷たい。
その手を振り切る事は容易い事なのに、自分の手はごく自然に彼の手に預けたままだった。
「ここの16階のお店、なかなか腕のいいシェフが居るんです。」
今まで見せた事のない様な屈託のない笑顔を向けられ、自分の意志に反して、彼の表情にトクンと胸が鳴る。
…はなぶさつやか…、なにトキメイちゃってるんだ!!
手を繋ぎ、高梨に微笑まれて、思わずときめいてる…。
呪縛にかかっているのかもしれない。
または、雰囲気に負けてるのかもしれない。
戻りたいのに戻れない、この状況。
エレベーターが到着すると、なんとまぁ…先客在らず。
二人っきりでその箱の中に足を踏み入れてしまい、何やら傍から見たらいい雰囲気になってしまっている二人…そのものだった。