「同じ空の下で…」
薄暗い外の景色に目を細めながら暫くの間、時の流れとやらに身を委ねてみる。
店内の心地よくて嫌味の無い照明…────。
喧噪から逃れたように、緩やかに流れる時間。
眼下に拡がる、都会の灯り。
店内には、ピアノの旋律と共に聞こえる、洋食器の音。
すっかり落ち着いてしまっている自分がそこに居る。
「あれ?高梨さん?」
自分の目の前に居る相手の名を呼ぶ女性の声で、やっとの事で我に返る。
声の主へ目を向ければ、スラリと背の高い、いかにも育ちの良さそうな出で立ちの女性がそこに居た。
どうしていいのか分からず、私は軽く会釈する。
「こんばんわ。」
声のトーンを変えずに、女性に受け答えする、高梨。
「こんばんわ。えっと…。」
その女性が私に目を向け、困った顔をして高梨の顔を見ていた。
「彼女は、僕の友人の英艶香さん。」
「はじめまして、ご友人の英さん。吾妻凛音(あずまりんね)と申します。」
「ど…どうも、はじめまして。」
少しどもりながら私は彼女に答えた。
どんなに鈍感な私でもすぐに分かる。
″吾妻さんは、高梨に気がある″って言う事。
「…私、席を外しますね…。」
「何故、あなたが?僕がお誘いしたのですから、ここに居て下さい。」
「あら、珍しい事もお有りなんですね。高梨さんからお誘いした女性なんて。」