「同じ空の下で…」

「艶香?」

静かな廊下に、心地よいトーンの瞬の声が響く。

「お袋、何言ったんだよ、艶香に…?」

少し鋭い目で、瞬はお母さんを見た。

咄嗟に、慌てる様にして私は瞬に話しかける。

「…瞬、もう、御祖父さんの方は、いいの?」

力なく、瞬は目を閉じて何かを納得したようにして私に頷いた。

「瞬、いつ日本に?」

お母さんも、頭を上げて、やっと瞬の存在に気が付いて、瞬の顔を見上げた。

「…さっきだよ。」

そういいながら、私の横に瞬はどさっと座った。

「瞬、お母さんに、帰国する事、言ってなかったの?」

「ああ、言い忘れた。」

「だめじゃん、そんな…ちゃんと家族に知らせないと…。」

「親父には言ったよ。」

「いいんですよ、英さん…。」

優しく、柔らかく微笑みを浮かべる瞬のお母さん。

「おかえり、瞬…。」

「…何も言わなくて…すいませんでした…。」

ふてくされた子供のような瞬は、そう呟くと暫く宙を見ていた。


「あの…、御祖父さんは…ご容態は…?」

「あまり…よくないのよ。これ以上良くもならないし、悪くもならない…っていう状態なんです…。」

「…末期の肺がんってやつだよ、艶香。」

「えっ!?」

「…だから、俺は…じいちゃんにお別れの為に日本に来た…。」

「瞬…も、忙しいのに、ありがとうね。」

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