「同じ空の下で…」
「おはようございます。長い間休暇を頂き、ありがとうございました。」
「おはよう。どうだ、良い休暇となったかね?」
常務室の主が現れ、第一声、私は休暇を頂いて居た事を常務に謝った。
本当は、自分の有給休暇を消化しただけなのだから謝る理由なんてないんだけど…社交辞令というか、礼儀というか…。
「はい、お蔭様で有意義な休暇を過ごさせて頂きました。」
「…時々休んで気分をリフレッシュするといい。業務効率も上がるというものだ。」
悠長に椅子に腰掛けながら話す常務は朝から本当にご機嫌な様子だった。…と言っても、あまり感情に浮き沈みの無い人だけど。
「英君、さっそくだが、今日は准一君が来る。打ち合わせの間、同席願いたい。先方の希望だ。大丈夫かね?他の業務に支障はないかね?」
「…承知いたしました。…同席…させて頂きます。」
「間もなくこちらに来るだろう。では、宜しく頼んだ。」
「かしこまりました。…では、下がります。」
「ご苦労さん。」
重役室の重いドアを閉めると、大きく長い溜息をドアの向こうでついた。
そのままその場にしゃがみ込んで、持って居たトレイで顔を覆い…、何とかかんとかドキドキを静めようと葛藤した。
『高梨の希望で、打ち合わせに同席』…たったそれだけの事だというのに…。
近頃、意思に反して、[高梨に好かれている]と意識しただけで、無駄にドキドキしてしまう。