「同じ空の下で…」
第23章 彩雲の如し
■第23章 彩雲の如し



「…や、やめ…」

酸欠気味になりながら、高梨から離れようと、懸命にもがき、胸を突き放す。

数回の抵抗で、やっとの事でほんの一瞬よろめく、高梨准一。

「あの、ここ、会社ですっ!」

周りに聞こえないような(と言ってもここは限られた空間、常務室ではあるけれども)声で、声高に言い放ち、私はドアに向かって出て行こうとして歩く。

「…失礼しました。つい、理性が…」

「給湯室に行ってきますのでっ!後程、会議室にはご案内致しますっ!しばし、お待ちくださいっ!」

半ばヤケクソになって、そう言い放つと、返事を待たず、更には高梨の顔を見ないようにしてその部屋を出た。


…心臓が…止まるかと…思った…。

呼吸が…できなくなるかと…思った。

相変わらず、落ち着かない様子のまま給湯室に行くと、あの一瞬の素早かった出来事がゆっくりと頭の中に浮かぶ。


きつく…抱きしめられた肩に…感触が残る…。

感触なんて…残さないで欲しい…。




洗い物が終わり、また、常務室へ向かう前に、軽く深呼吸をして歩き始めた。


ドアの前で立つ高梨を見つけて、通り過ぎながら

「…ご案内いたします」

と小さな声を出し、全く彼の顔も見ずに、高梨の前を歩いた。



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