「同じ空の下で…」
「怒ってますか?」

「…何をでしょうか?」

「先ほどの事です」

「…いいえ、全然っ。」

「ならば、こちらを見て頂けませんか、英さん?」

「…勤務中ですので、申し訳ありません。ご要望にお応え出来かねます。」

「…まいったな…」


この高梨という男も…

油断も隙もあったもんじゃない。

高梨を見ないようにしてるのは、自分の顔から熱がなかなか引かないからだ。

そして、まともに彼の要望に応えて居たら、めっきりと高梨ペースに容易く巻き込まれそうだった。


会議室が見えてくると、急に立ち止まり、私はクルリと向きを変えた。

「高梨専務様。」

「はい?」

「私事で申し訳ありません。婚約致しました事をご報告致します。」

「…えっ!?」


高梨の出来過ぎたポーカーフェイスが崩れて、その驚いた顔を見届け、踵を返すと会議室まで再び歩きドアを開けた。

「お待たせ致しました。こちらとなります」

と、エスコートして彼を会議室内に通す。

「…ご案内ありがとうございます。」

軽く会釈をし、顔を取り繕う高梨。

その後ろを歩きながら、会議室の端に座り、お望み通り″会議へ同席″した。


「それでは、時間となりましたので、始めさせて頂きます…」


周りを見渡せば、錚々たる面々。

持ってきたシステム手帳を会議室の机に開き、私は前を見据えた。
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