「同じ空の下で…」
…いかにも、デキる若手御曹司。
可も不可もない、嫌味のないファッションセンスに溢れて居るスーツの着こなし。
あの体に、さっき迄、包まれていたかと思うと私の体内の血が一気に逆流をはじめるかのように、ざわざわと駆け巡り始める感覚を覚える。
だけど…彼の思いを受け入れる事は…出来ないのだ。
『婚約したんです』
『…えっ…?!』
プレゼンされている内容など全く耳に入らない。
先ほどの彼の表情を思い浮かべ、俯き、自分の左手を見ると、薬指の指輪を軽く撫でた。
…瞬、今頃…どうしてるかな…。
会議室からほんの少しだけ、窓から灯りが毀れている。
その隙間から見える、青い…空。
…この空を、瞬も見上げてるのかもしれない。
日本のどこかで。
「…以上、我が社の提案するプロジェクトの説明を終わります。ご清聴頂きありがとうございました。」
その言葉と同時に、部屋の照明が付き、ブラインドが静かに上がって行き、空が見える。
雲に、色が…虹色がペインティングされているかのように、彩られていた。
『────…彩雲。』
美しかった。まるで、水彩絵の具で幼い子が落書きでもして染めたかのような…うっすらとした虹色だった。
「質疑等ございましたら、挙手をお願い致します。」
本田営業部長の声が会議室にコダマするが、私はすっかり窓の外に心を奪われていた。