「同じ空の下で…」

その怒声で、親戚、及び会場に居た人々の視線が一気にこちらに向けられた。

「長い間、ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした…!」

親父の怒声にも負けず劣らずの兄貴の声が、静まり返ったそこに響いていた…───。

俺は、ずっと握っていた掌が、緩んでいくのを感じて、その場から離れた。

岡崎家長男、岡崎 優輝。″優秀で輝く″と書いて、ゆうき。

あいつは、10年前、突然姿を消した。

あの日の事はよく覚えて居る。

親父と前の晩に、会社の経営方針の事で口論していたのも、覚えて居る。

その親子の言い争いに、爺ちゃんが喝をいれたのだ。

「やめんかっ!見苦しいにも程があるっ!」

「…俺に、会社の事で口を出すなど、10年早いぞ。口を慎め。」

その親父の言葉に何も答える事も無く、兄貴は家を出た。

そして翌日…。

朝練の為に、早起きをしてリビングに降りて行った俺の目に止まったのは、

ダイニングテーブルの上に置かれた、

兄貴の名前が入ったネームプレートと、名刺。そして…辞職願。

【㈱Okazaki Director 岡崎 優輝】


「おいっ!お袋っ!」

二階に上がり、両親の寝室を叩いて、俺は二人を叩き起こしたのだ。


兄貴の部屋にも立ち寄るが、全くなにも変わらず、日常のままで、いつ帰って来てもおかしくない状況だった。




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