「同じ空の下で…」

「本日は、お約束の時間に遅れまして、大変申し訳ありませんっ」

クライアントの所につくと、真っ先に私と瞬は二人で頭を下げ、約束の時間に遅れてしまった事をお詫びした。

口が裂けても、『今日はやる気ないんです』なんて言える訳がない。



「とんでもない!…どうか頭を上げてくださいませんか。」

優しそうなその女社長さんは、むしろすまなそうに私たち2人に言葉をかけてくれる。
その言葉に、素直に応じ、私と瞬はゆっくりと頭をあげ、女社長さんの顔を見上げた。

「私はあのイベントのファンなの。そのご縁があって毎年出資させて頂いてる。毎年このようにして来て貰うけど…貴方達みたいに遅れた事をちゃんとお詫びできる…そんな子達は初めて。今の若い子も捨てたもんじゃないね。少し…安心しました。」

そう話すとニコニコと機嫌良さそうにしてお金が入った封筒を差し出してくれた。


…この提案は、紛れもなく、瞬の提案だった。

『着いたらまず、頭下げる…。艶香、俺に続いて頭下げてね?』

…その瞬の提案に、私も素直に従う。



瞬はつくづく、気が付く男だなぁと思う。

機転が利く…というか、例えそれが計算づくの行動であったとしても、その場その場で臨機応変な対応がしっかり出来る人だと思った。

認めたくないけど、そこら辺には…尊敬の念を覚える。




「今日は貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました」

もう一度、社長さんに二人で一礼すると、その場を後にした。



その会社を出て、車の中に入ると、私達は顔を見合わせ互いに笑顔になる。

「瞬、やったね!」

「怒ってなくてよかったな♪…さて、海ぶ・ど・う♪」

「タケルに連絡しておくね、ご飯を食べてからそっちに行くって。」

「頼んだぞ、艶香♪」


酷くご機嫌な瞬は、私の頭に手をポンっと置くと、車をバックさせた。


「喉かわいたから、コンビニ寄って。・・・・あ、もしもし、艶香です…」



< 57 / 646 >

この作品をシェア

pagetop