「同じ空の下で…」
エアポートでフライトアナウンスが聞こえれば、一緒に居られる時間に限界の時を感じて、強く手に力をこめると、瞬は私の頬に唇を宛てたまま、目を瞑った。
言葉は無かったけど、何となく、瞬の言いたい事が分かった私は、同じく目を閉じた。
「…俺たちなら…大丈夫。」
「…うん。知ってるよ。」
交わした会話はそのぐらいしか覚えていない。
高鳴る鼓動と瞬の体温と、感じるぬくもり…それだけあれば充分だ。
手を握り隣に並んでさえいれば、意思の疎通なんて空気感だけで分かる。
どんと構えて、瞬を送り出さなければ…。
…私は、気丈にふるまう。
例え、瞬がどんなに悲しそうな顔をしたって、私は笑顔で彼を送り出さなければいけない。
どんなに不安に襲われようとも。
どんな誘惑が訪れようとも。
・・・・私は…自分に誓った。
最後の肌の触れ合いをした昨夜、瞬の愛しい寝顔を見つめながら。
勝手に自分に言い聞かせた。
搭乗手続きが始まり、瞬が傍から居なくなる。
軽く唇を噛み、泣かないようにと瞬に微笑みかけた。
「行ってらっしゃい、瞬。」
「じゃ、いってきます。」
その後、瞬の乗る飛行機が空に向かうのを見届け、一人、色々な事を考えながら帰宅した。
そして、空を見上げる。
飛行機が一機、緩やかに飛んでいくのが見えた。
…今頃、瞬は雲の上に居ることだろう。
…比翼から見える雲の上の景色を堪能している事だろう。