壊れかけの時計
「わり、遅れた。」
そう言って入ってきた、彼に―――私の思考回路はショートした。
スラリと伸びた手足、男のくせに無駄にいいスタイル、そして――いくつもの女性を騙してきたような甘いマスク。
無駄に整った顔は、女子全員の頬を赤く染めた。
―――私、以外は。
「(全然、変わってない)」
まだ、動揺が隠せない中私は隣にいる愛海に目を向けた。
やっぱり彼女は恋する乙女の瞳をして、彼を見つめた。
――――やっぱり”あの人”は、誰もを虜にするらしい。
「・・ねぇ、花音。私の好きな人・・あの人だよ。」
周りが彼に声を掛ける中、愛海は彼に見惚れたまま。
「ふーん、」
そんな余裕そうな声を出してみたものの、内心焦っていた。
どうして。
どうしてここに彼がいるのだろう。
じっと彼を見つめていると、彼は妖艶な微笑を浮かべて私を見るのだ。
「―――神楽です。よろしく、ね。」
そういって、私と愛海の間に空いた席に腰掛けた。
「っ」
―――きっとこの男は、何かを企んでいる。