壊れかけの時計
「神楽くん、なんで遅れて来たの?」
「ちょっと、いろいろね。」
「そうなんだぁ、あ、何飲む?」
「―――カシスオレンジ、お願いできる?」
さっきから隣で聞こえてくる男女の会話に、私は舌打ちをしたい衝動に駆られた。
愛海の猛アタックを受けながら、余裕そうに横目で私を見てくる男は確信犯だ。
カシスオレンジ―――なんて。
彼は、甘いものが嫌いなのに頼むはずがない。
すると、左隣の男が話しかけてきていたのを忘れていた。
「―――花音ちゃん、聞いてる?」
「・・あ、ごめんなさい。ちょっと、酔ってしまったみたいで・・。」
そうだ、私は今この男の相手をしているのだ。
外で素を出すわけにはいけない、そう思って私は潤んだ瞳でその男を見上げてみた。
「そっか。大丈夫ぅ?」
そういって、その男は汚らしい手を私の膝に置いてきた。
「・・はい、なんとか。(調子に乗らせすぎた)」
にっこりと微笑んで、この場の切り抜け方を考えていた。
一刻も早く。
――この地獄を抜け出したい。