壊れかけの時計
「・・花音、さすがだねぇ。」
男に聞かれないように、私の隣に座っている愛海は小声でそう呟いた。
「そう?」
私は男が持ってきたカシスオレンジを口に含んで、ゆっくり息を吐いた。
その隣で、愛海もため息に似た息を吐いていた。
「―――あんなに楽しみにしていたのに、退屈そうね?」
私がそう問いてみると、彼女は予想していた言葉をくれた。
「・・・彼、遅れてくるんだって。」
彼女は小さな口を尖らせて、ウーロン茶を口に含んだ。
彼とはきっと、愛海がいっていた好きな人だろう。
今、この個室には女子6人男子5人がいる。
つまり男子が一人足りないのだ。その足りない人こそが愛海の想いの人。
―――いや、きっとこの部屋にいる女子が全員狙っているのだろう。
女子たちのそわそわした雰囲気に、私はニヤリと口角をあげた。
「(どんな人なんだろう)」