ケータイ彼女に恋して
ミズキも俺の雰囲気を察したのか、少し憂うような、そんな顔をした。
その顔は、俺を見ているわけでなく、俯いている。
「煙草吸ってもいい?」そう尋ねる俺に、「ウン、大丈夫」と静かにミズキは答えた。
先日の日曜とは違い、今日は客も少なく、しかも俺たちは角の座敷に座っている為、あまり飲食店らしい雰囲気もない。
まるで、どこかの個室にいるかのよう。
突然、流れる空気が変わったからか、それとも互いに見せる表情がそうさせるのか、
厨房で動き回っていたオッチャンも、客足が少ないせいか姿を消していて、店内は急に静かになった気がした―。
「ミズキちゃん?」
俺は煙草を吹かした後、話を切り出した。
「はい」、そう言ってミズキは顔を上げた。
「うーん、何て言ったらいいかな…
落とした携帯を拾ってくれて、それは凄い助かったんだけど…」
俺は言葉に詰まりながらも、疑問を全て拭う為にも続けた。
「…普通なら、そのお礼をしたいからって、俺の方からミズキちゃんを誘うならわかるんだけど…」
ミズキは困ったような顔を見せながらも、黙って話を聞いている。一言一言に頷きながら。
「俺は当然、ミズキちゃんの連絡先を知る訳もなく、お礼をしようにも出来なかったんだけど…
何故か、ミズキちゃんから連絡があり、でも俺の携帯電話には『夏姫』って表示されて…
そして…ミズキちゃんから会えるかなって誘われた…
どれもわからない…」