ケータイ彼女に恋して


俺は時折、相槌をしながらもあくまで冷静に聞いていた。


「私は、用事があったから、リエに携帯を託して…」


そこでミズキの言葉は一端止まり、俺を見つめた。

その目は凛としている。瞳は微かに滲んでるような…


俺は思わず、視線を反らすように、持っていたフィルター近くまで燃えきった煙草を、灰皿に押し当てた。



その俺の動作を目で追いながら、

ミズキは言った。


「…会いたい。
もう一度会いたい。そう思って私は、リエに瞬クンの携帯を渡す前に…

瞬クンの番号を私の携帯にメモしたの…
勝手なことして、ゴメンなさい」


ミズキは俯くようにして、頭を下げた。

……

俺はそれを聞いて、大胆な女の子だ、なんて思うよりも、何だか…

酷くガッカリした。

純粋であるとか、
素直であるとか、
そういった理想的な部分は、ミズキには該当しないのか…

そう感じたから。


そう感じた一瞬、頭の中には、純粋でかつ素直な女の子。
ナツのことが頭をよぎった。


俺は、


「それで俺の携帯番号知ってたんだ…」


そうミズキに言った後、視線を反らし店内にぶら下がる提灯のような、ぼんやりと瞬く光を、何となしに見つめた。


一つの疑問、

いや、二つの疑問は晴れた。


番号を何故知っていたか、
何故…料理屋で一度見かけただけの俺に、会いたいなんてミズキは言ったのか。


でも、その理由は俺を納得させるよりは、落胆と不信感、

そして、何となく晴れる事のない新たな戸惑いが俺の心に渦巻いていた…
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