ケータイ彼女に恋して

「へぇ〜、ほえ〜、いい名前だな〜」


俺は奇声を発しながら、その携帯に表示される名前を眺めた。

ミズキは「アハハ」と笑って、携帯をバッグに締まった。


七夕かぁ、七夕ねぇ…七夕…

俺は、頭の中で七夕という言葉を重複させると不意に頭が痛くなったので、自分の携帯電話を見る素振りをミズキに見せて、


「そろそろ店、出ようか?」


そう言って、立ち上がった。

ミズキも、俺の言葉と動きに慌てるように立ち上がり、

会計を済まし、店を出た。
携帯を拾ってくれたお礼も兼ねて支払いは俺がした。



入店した時とは打って変わって、外は真っ暗だった。

俺は煙草に火を灯すと、夜空を見上げて、フゥーっと煙を吐き出した。


「…また会えますか?」


ミズキのその言葉に俺はドキッとした。

振り返りミズキを見ると、何とも悩ましげな表情をしていて、また…俺の心を揺さぶった。


「…うん、また」


そう言って俺は別れ際に、「ケータイ拾ってくれて、本当にありがとう」、笑顔でそう付け足した。

その言葉には自分なりに色んな意味を込めて―。

その中の一つは、

今日ミズキちゃんに会ったのは、携帯のお礼をする為であって"また"があるかどうかは、わからない…


俺は背を向け歩き出し、ふと振り返るとミズキは手を小さく降っていて、

その姿と光景に、思わずまた背を向けて、その場を後にした。


吐き出した煙を目で追うと、

空は何とも言えず、


曇っていた――…
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