ケータイ彼女に恋して


店から家までの距離が近い事が、何だか少し切なくて、

多分、もう少し、夜空を見上げながら外を歩いていたかったんだろうけど、足は勝手に家路を選択した。


俺は部屋に入るなり、服を脱いで、携帯をポンとベッドの上に投げやって風呂に入った。


シャワーの蛇口を捻ると、歌いだす俺のいつもの癖も今日は発動せず、

ザァー…っという、静かで心地よい音を、耳に、そして頭に届けていた。

日常の疲れを洗い流すだけでなく、シャワーのこの音は、

色んな思い、葛藤さえも洗い流してくれる気がして―。



風呂から出ると俺は、服を着てすぐさまベッドにゴロンと横になった。

そして、本来なら白い、でも今は真っ黒な天井を何となしに眺めていると、睡魔に襲われ、眠りについた―、




ナツ…

梅山ナツ…



ミズキ…



七夕…瑞希…


深い深い、眠りの底で、きっと朝目覚めたら覚えていないであろう、

夢の続きとも言える、


そんな映像が俺の眠りを支配した――……

……
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