ケータイ彼女に恋して
「今はまだ書きかけだから、完結したら見せるよ」
俺はそう言って、煙草の灰をテーブルの上にある灰皿に落とした。
そもそも完結したところで、ナツに向けてのラブレター小説、その名も小説ラブレターを大貴に見せたところで、大貴の持つロマンチシズムに通ずるモノがあるかは微妙。
完結したら…、なんて体のいい、その場しのぎの言葉。
大貴は長い後ろ髪を束ね終えると、「必ず見せてよ」と言って、持っていたペットボトルのレモンティーを飲み干した。
俺は、大貴のその姿を見て、前々から気になっていた長い長い後ろ髪について質問してみる事にした。
「大貴、その髪って伸ばしてんの?」
「伸ばしてるよ」
大貴は、見ればわかるだろ、というような顔をした。
「切らねぇの?」
「切れない」
大貴は俺から視線を外して、髪に手櫛を通す。
そして、「何で?」と俺が尋ねるよりも早く大貴は言った。
「俺の元から去ってしまった女の子に想いを貫いてるから」
大貴は初めて、女の子の事を"ギャル"ではなく"女の子"と言った。
だから俺にもその女の子は大貴にとって特別な人なんだって理解した。
大貴は悲しそうな目で遠くを見ている。
「じゃあ、その女の子と上手くいったら、髪を切るんだ」
俺は勝手に、大貴がその女の子にフられたんだと決めつけた。