ケータイ彼女に恋して
それから暫く大貴と話をして、俺が家に帰り着いたのは、午後7時を回った頃だった。
俺は仕事着のまま、フローリングの床に寝転び、手を額の上に乗せて目を閉じた。
一見、遊んでそうな大貴も…その実、一人の女性を想い続けてんだな…
最近、床よりもだだっ広い天井を眺めて物思いに耽る事の多い俺は、今日もまた、気がつけば段々と薄汚れてきている天井を眺めていた。
男って意外と、女の子が思ってるよりも、遥かに繊細で、懐かしい思い出に浸り、諦めない気持ちを持ち続けている…
ロマンチストだ…
ふと、
中華料理屋で出会ったミズキという女の子の事が頭をよぎった。
パッと見、俺のタイプの女の子だったけど、
いくらミズキが俺をタイプだって感じたからといって、勝手に人の携帯番号を拝借するのは、
どうかなぁ…
普通、ないだろ。
俺は大貴の一途な話を聞いた後というのも手伝って、
ミズキという女の子の行動に少し苛立っていた。
タイプが理想に届き損ねたからかもしれないけど、もしかしたら少しだけ…
ショックだったのかもしれない……
そんな事を考えていた、その時――、
俺の携帯が着信を知らせる音を部屋中に響かせた。
携帯画面のディスプレイには、
―夏姫―
と表示されていた―。