ケータイ彼女に恋して


俺は、その夏姫と表示される名前を見て、また少しだけ頭痛に額を抑えながらも、携帯の通話ボタンを押した。


『ハイ』


既に眠気でも襲ってきていたのか、自分でもビックリする程の低いトーンの声で、俺は電話に出た。


『あ、瞬クン。ゴメン、寝てたかなぁ?
私、ミズキです…』


『いや、起きてた…どうした?』


昨日の今日で俺に何の用があるんだよ…
先ほどの気持ちと、頭痛のせいで、少し心が荒んでる気がする。


『あの、瞬クン…急で悪いんだけど、今晩会えないかな?』


俺のトーンに比べればかなり高い声質で俺の頭を刺激する。


『あぁ…今日はムリ』


『そっか…、

じゃあ、週末は?』


何なんだこの女…
積極的なんてレベルじゃないぞ……


『週末の事は週末にならないと解らない…

…また俺から連絡するよ…』


『……、うん…わかった。じゃあ、連絡待ってるね』


そう言ってミズキは最後に『いきなりゴメンね』、と言い残して電話を切った。


俺は携帯電話を床の上でスライドさせるように遠くに投げやって、
フゥ、と大きな溜め息をついた。


ミズキという女の子は、

純粋…そんな言葉からかけ離れているように思う。
俺の理想にはほど遠い……


俺は勝手なんだろうか…
それともミズキの行動がおかしいのか…
頭の痛みは、俺に答えへと導かせることを拒んだ。




ナツだ…

俺が恋した理想は、

ナツだけ…


俺も大貴と同じように一途な男なんだ…

……
< 122 / 164 >

この作品をシェア

pagetop