ケータイ彼女に恋して
「じゃあコレで!」
ミズキは口元を緩ませながら、曲を探しだすとリモコンに打ち込んだ選曲No.を送信した。
最新のヒットチャートが映し出されるテレビの画面が切り替わると、
バラード調のイントロが流れ始めた。
曲は、
いきものがかりの、
『SAKURA』。
初めて聞くミズキの歌声は、女の子らしい高い声質ではないものの、
馴染みやすい、耳障りのいい声だった。
歌ってる顔を見られるのが恥ずかしいなんて言ってたけど、
鏡張りのこの部屋は、顔を覗き込まなくても容易に、
バラードから、かもし出す憂えるその表情を鏡越しに映した。
目で追う俺の視線に気づいたミズキは、歌いながらも恥ずかしそうに微笑んだ。
一曲歌い終えると、互いに緊張がほぐれたのか、交互にテンポよく歌い合い、
気が付けばあっという間に一時間が過ぎていた――…
予定ではあと一時間。
ミズキは携帯電話を見た後、
「少し話したいな…」
そう言って、マイクをテーブルの上に置いた。