ケータイ彼女に恋して
それからミズキは、電話の向こうのリエという子と、二言三言話した後、
電話を切って、席に座った。
隣り…ではなく、向かいの席に。
「ごめんね。何かいきなりで」
ミズキは、ていの悪い様子で苦笑いを浮かべた。
ま、別にリエって子が来たって、俺の当初の趣旨が変わる訳でもないし…
むしろ、好都合かもしれない。別に目の前に座るミズキが、
特別って…訳じゃ…
な…い…
俺は、不意に、
カラオケのテレビを見るミズキの横顔に、
目を奪われた。
ボンヤリと…何か…
霞がかったものが俺の焦点を揺さぶる。
似てる…
やっぱり似てる。
昔、好きだった女の子に…
「ミズキ?」
「ん?」
ミズキは俺の呼びかけに気づくと、テーブルの隅にあるグラスに手を伸ばした。
届かないらしく、俺はそのグラスを手にとり、ミズキに手渡した。
「ありがと」
そう言ってニッコリと微笑んで受け取る際、
手渡す俺の右手と、
受け取るミズキの右手が、
グラスの両側で、
静かに触れた。