ケータイ彼女に恋して

その瞬間、視線の繋がりが二人を刹那的に沈黙させた。

ミズキは視線を外し、グラスにまだ並々と残る烏龍茶をゆっくりと口に含んだ。

俺の視線はミズキを捉えたまま、照れ隠しにも映るその姿を見つめた。


「話したいことって何?」


俺はミズキが烏龍茶を飲み終わるのを待って、少しだけ微笑んで言った。


「アハハ、いや…うん、

そんな改まって言う程の事じゃないんだけどね」


ミズキはグラスを静かにテーブルの上に置いた。


うん、まぁ改まって言う事じゃないんだろうけど、

そう聞こえたのは、俺の勘違いか…
はたまた、この薄暗く狭い部屋の雰囲気がそうさせたのか…


「瞬クン、今仕事は何やってるの?」


「工場で働いてるよ。…でも最近何か、こうじゃないなって思っててさ」


「こうじゃない?」


ミズキは訝しげに俺を見る。

煙草を吸わないミズキに遠慮してたけど、初めてここにきて俺は煙草に火を灯した。


「うん、俺…何かを作る事が好きでさ、表現したものを形に残したいんだよな」


ミズキはウンと頷いて黙って俺の話を聞いた。


「今は、工場で車を作ってるけど、所詮無機質な機械で、

そこには感情も温もりも何もなくて…」


「…俺は小説や漫画を書く事が大好きだから、もっとこう…

人との触れ合いを実感できるような仕事をしたいって…思ってる。

生きる上で、お金を得る事は必要不可欠だけど、好きな事を仕事に出来たら、

それは…最高な事だなぁって」
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