ケータイ彼女に恋して


「面と向かって、"もう会えない"とは言いたくないからさ、花を渡して、相手に気付かせたいんだ」


こんな風に、策を労する時の大貴は、決まって目を輝かせる。


「…でさ、それを相手に納得させる為にも、運命的な演出にしたいんだよ」


その話を聞く俺の反応を楽しむかのように、大貴は淡々と喋り続ける。


「最後のデートの帰り道に『花屋に寄ろう』って相手を誘って……そこで…『記念に、お互いに花をプレゼントし合おう』って言うわけ…」


ノッてきたようで、煙草の火を灰皿に押し付け、持っていたペットボトルのレモンティーを口に含むと、更に続けた。


「で、花を選ぶ前に相手に、『花って、それぞれ花言葉があるから、もしもお互いに選んだ花が、別れを示すようなコトバだった時は、俺たちの関係もそういう運命かもな』って、言うんだよ」


話しの全容が掴めてきて、俺も少しずつのめり込んでいく。


「そこで、適当に花を選ぶフリをするんだけど、俺は事前に別れの花言葉を持つ花を調べとくっていうプラン」


作戦とも言うべきプランを、ひとしきり話した大貴は、満足気な表情で俺の顔を覗き込む。


「凄ぇな。それが大貴の美学?」


「そう!去り際までカッコ良くありたいからさ」



人は時に、自分でも気づかない深層心理が表に出てしまう事がある。

大貴は、去り際の美学だ、と言ったけど、俺にはそれも一つの

『寂しさ』
からくる行動じゃないかと感じた。


去ってもなお、いい印象でありたい、というのは、

嫌われたくはない、忘れられたくはないと、

裏付けられてる気がする―…
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