ケータイ彼女に恋して

仕事終わりの自宅へと帰る道中―。

ハンドルを握りながらも車内から見える外の景色を楽しんでる。


最近、目に映るものの捉え方が変わった。

季節の移り変わりや、天候の変化、道行く人々、そのどれを眺めても小さな感動に包まれる。


10分ほど車を走らせた場所で、必ずといってもいい程止まる交差点の信号に、今日もつかまる。

赤信号を確認すると、いつものように助手席の窓の外へと視線を流す。


今日も居た。


いや、繋がれてる…


交通量の多い道路、小さな歩道を挟み、住宅が並ぶ、その中に一匹の犬がいる。

雑種っぽく毛並みが悪い、
いや、血統のせいではなく、可愛がられてないんじゃないか…そんな印象を受ける程に、その犬は元気がない。

それもその筈だと、いつも悲しく思う。


本来、車を駐車するはずのガレージの隅っこに、小さな犬小屋が設置され、一メートルもない紐で繋がれている。


日も当たらない上に騒音に排気ガス…

これだけで不眠症になりそうな、そんな劣悪な環境下。

犬だからこそ許されるのかもしれないが、これが人間なら監禁された上に拷問を受けてるようなもんだ…と怒りさえ覚える。


これで、もしも散歩 にも連れていってもらえてないとしたら、

完全に生き地獄だ。


信号が青になったのを確認して、
やり切れない気持ちをアクセルに乗せ、その場を走り去った。
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