ケータイ彼女に恋して

「ただいま」


…なんて、声を掛ける相手もなく、無言で靴を脱ぎ、部屋に入っていく様は正直寂しいもんだ。


それでも、仕事着を脱ぐと、今日も一日頑張ったんだという達成感と、

これから寝るまでの僅かな自由な時間に開放感を感じる。


庶民的な日常の
小さな幸せ。


感性と感覚が全てだと感じる俺は、部屋で過ごす一人の時間がとても好きだ。

人と接する事による感情の支配がないから…


笑いたいけど、泣きたくはない。

楽しみたいけど、疲れたくはない。


言うなれば、こんな我が儘も、独りならば、まかりとおってしまう。


…とはいえ、服を脱いで真っ先に風呂…ではなくテレビを付ける、これが習慣。

プツン…

という音と共に、笑い声が部屋中にフェードインする。


小さな箱の中で、縦横無尽に動き回る人たちを、一人ぽっちの部屋で眺める。


時に笑い、時に泣き、楽しみ…疲れて眠りにつく。

大きな矛盾の中で、小さな満足感に包まれる事に違和感を持ちながらも、


『これでいい』…と自分を否定する事はしない。



『寂しくてもいい』ではなく、


『寂しいからこそいい』


という意識で、
俺という人間…
青葉 瞬(あおば しゅん)は、今日まで生きてきた。

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