ケータイ彼女に恋して


「今日、見える月は、明日はもう見えないって知ってた?」


疑問系な台詞から察するに、どうやら話し相手は俺のようだ。

では何故、目線は一点だけを捉え、

その視線が注がれる相手は俺ではなく、

目の前にある灰皿なのか…?


人と話す時には、相手の目を見ましょうって教わらなかったのか…?

そんな俺の心の声など大貴には届く筈もなく、


灰皿に語りかける大貴。


「月はさ、毎日少しずつ地球から離れていってるんだよな」


そう述べる大貴に対し、

自慢じゃないけど、月をテーマとした小説だって書いた事あるし、月の事なら俺だって詳しいよ…

と、対抗意識を燃やしたくもなったが、

「あぁ、知ってるよ」

という俺の相槌も、滑らかにスルーされ、あくまでも話し相手は灰皿のようなので、黙って聞く事にした。


「だから、今日見える月は明日はもう見る事は出来ない。
これって日々の大切さを教えられてるようで、
何かロマンチックだよな〜」


仕事も終わったばかりだというのに、

この方は、既に酔っ払っているようだ…



それも自分に。
< 45 / 164 >

この作品をシェア

pagetop