ケータイ彼女に恋して
「今日、見える月は、明日はもう見えないって知ってた?」
疑問系な台詞から察するに、どうやら話し相手は俺のようだ。
では何故、目線は一点だけを捉え、
その視線が注がれる相手は俺ではなく、
目の前にある灰皿なのか…?
人と話す時には、相手の目を見ましょうって教わらなかったのか…?
そんな俺の心の声など大貴には届く筈もなく、
灰皿に語りかける大貴。
「月はさ、毎日少しずつ地球から離れていってるんだよな」
そう述べる大貴に対し、
自慢じゃないけど、月をテーマとした小説だって書いた事あるし、月の事なら俺だって詳しいよ…
と、対抗意識を燃やしたくもなったが、
「あぁ、知ってるよ」
という俺の相槌も、滑らかにスルーされ、あくまでも話し相手は灰皿のようなので、黙って聞く事にした。
「だから、今日見える月は明日はもう見る事は出来ない。
これって日々の大切さを教えられてるようで、
何かロマンチックだよな〜」
仕事も終わったばかりだというのに、
この方は、既に酔っ払っているようだ…
それも自分に。