ケータイ彼女に恋して
ザァアアア…
シャワーの蛇口を捻ると、小さなこの浴室は、水を弾く音で包まれる。
その音は心地よく、一日の垢と疲れを洗い流すには、もってこいだ。
…と同時に、多少の声ならば掻き消してくれる防音効果もあり、鼻歌混じりに口ずさむそれは、さながら貸し切りのカラオケボックスと化す。
実際は、換気扇を通して外に漏れてるかもしれないけど、それを言うなら、それこそカラオケボックスと何ら変わりはない。
本日のテーマ曲は、
『楓』。
俺の大好きな唄の一つで、切ない失恋を綴った…そんな一曲。
この唄を歌うと、
恋がしたくなる。
失恋の曲なのに…
多分、新たな一歩を踏み出そうとする、その想いが淡い恋心を蘇らせるんだろう…
草野さんの書く詞は、メッセージ性が強く込められてて、妙に心に染みる。それでいて、押しつけがましくない。
俺も…こんな表現できるといいなぁ。
ガシガシと頭を洗い流すと、蛇口を閉じた。
ポチャン…
ポチャン…
…よし!
早くやろう!
リズミカルな程、軽快に体の水滴を拭うと、足早に浴室を出た。