ケータイ彼女に恋して

灰は…ash(アッシュ)。

…あ、そうだ。
思い出した…

俺は色黒の店員に向かって再度、注文した。


「アッシュトレー、プリーズ。アッシュトレー!…オッケー?」


発音なんてデタラメだけど、取り敢えずは中学生の時に英会話スクールに通った成果を発揮できた…

…ように思えたのも束の間。今度は鳴きそうな顔をする色黒の店員を見て、何だか俺も泣きたくなってきた。


諦めればいいものを、どうしても煙草を吸いたかった俺は、

ジェスチャーで意思表示を試みる事にした。

コレこそ、万国共通!


火は灯さずに、煙草を口にくわえ、フゥーっと吹かすような動作をし、煙草の先をトントンと指ではじき、灰を落とす…

というジェスチャーを色黒の店員に見せた。

それでも尚、


「ワタシ、ワカラナ〜イ」


と、連呼するので、さすがに可哀想に思った俺は、


「…すいません、もう…」


(いいです!)…と言いかけた瞬間、

隣りの席から、


「請給我烟灰缸(チン ゲイ ウオ イェン ホイ ガン)…。」


妖しげな呪文の様な声が聞こえた。いや、けれど…この発音から察するに恐らくコレは中国語…

隣りの席に目をやると、声の主は色白の女の子だという事がわかった。続けざまに、色黒の店員と会話を交わしていたからだ。

色白の女の子と話した色黒の店員は、その場を去ると、すぐに灰皿を持ってきて、俺のテーブルに静かに置いた。
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