ケータイ彼女に恋して
カランコロン―。
こんな一大事に呑気な音、鳴らしてんじゃねえよ!
俺は非常にテンパっていた。
店の扉を開く際に鳴る鈴の音にさえ、八つ当たりをする程に、気持ちは焦っていた―。
「イラっしいませ〜ぇ」
店のオッチャンの声が店内に響く。
よく見ろよ、俺の顔を!さっき、豚骨ラーメンと中華丼を食べたばかりの人間が、ものの10分足らずで再び、いらっしゃる訳ないだろっ!!
その俺の顔に、店のオバチャンが気付く。
「あ、オバチャン!俺さっき此処に食べに来たんだけど、帰る時に携帯電話忘れちゃってさ!!
…なかったかなっ!?」
俺はオバチャンの元に駆け寄り、先程座っていた席を指差しながら尋ねた。オバチャンは、この中華料理屋の中では、唯一日本語を話せる店員さんだ。俺は常連 だけあって、顔も覚えてもらってる。
「…あぁ〜!」
オバチャンは目を丸くさせ、焦る俺の顔を見た。
え、何!?…あったの…!?
「ワタシぃ、店に今来たばかりダカラ、わからないヨォ〜」
その言葉に、俺は口をモゴモゴさせ、次いで質問したい事があったが、
…何せ、このオバチャンは"この店"で唯一日本語が上手い店員さんというだけで、俺が長々と質問した所で、理解してくれるかは微妙だ…
それよりも、今は一刻を争う…!!
「オバチャン、ごめん、ありがとう」とだけ言って、俺はオバチャンに背を向け、先程俺が座っていた席に走った。