ケータイ彼女に恋して
席には、既に他の客が座っていて、食事中だった。
「…あの、スイマセン」
重々しく焦燥の顔を浮かべる俺に、カッターシャツ姿の営業マンっぽい中年の男性が怪訝そうに俺を見る。
「この席に、携帯電話の忘れ物とか…ありませんでしたかっ…!?」
「あ〜!?…なかったけど〜!?」
中年の男は、食事を邪魔された事で、眉間にシワを寄せながら、軽く答える。
またも俺は、口をモゴモゴさせ、「本当にありませんでした?」、などと言いたかったが、疑惑を抱くのは焦った俺の自分勝手な言動の為、
「お食事中、すいませんでした…」とだけ言って、店を走って後にした――。
出る際に、あの2人組の女の子がいないかも確認したけど、もういなかった。
これがマンガやドラマなら、あの色白の女の子が拾ってくれてて…
そして…
その思考にブンブンと首を振ると、
一旦落ち着いて状況を整理しようと、煙草を吸う為に、右ポケットに手を突っ込んだ。
あ、そうか…
ポケットの中身、全部出したまま、家を飛び出したから、置いてきたんだ…。
フゥ…
…よし!一度状況を整理しよう!
最後に携帯電話を見たのはいつだ…?
えーと、確か…
そうだ。メモを打ち込んだ時だ…
その後は…
やべぇ、見てねぇや…
…て事は…
やっぱりあの店に忘れたって事じゃん!
でも、なかった…
…て事は…
誰かが持ち去った。
いや、拾ってくれた。
…それは誰だ!?