ケータイ彼女に恋して
時刻は月曜の正午を迎える頃―、
俺は一心不乱に小説を書き綴っていた。
まるで、ナツへの想いがそのまま小説に乗り移るかのような感覚で、筆…というか、携帯電話を操作する指は休まる事を知らなかった。
そこへ、俺の指を止める一本の着信が音を立て鳴り響いた―。
執筆を止められた事に、憤る暇もなく、俺は画面に表示される名前に釘付けになった。
―『夏姫』―
…誰だ?
画面に表示される名前に見覚えがない。
夏姫…!? 誰だっけ?
こんな名前の知り合いいたかな?
どんなに記憶を辿っても夏姫と表示される者を思い出せない。
俺の電話帳にはゆうに100件を越える名前が登録されてある。
昔は親しかったけど、今では連絡をとる事さえなくなった人や、その時限りのメル友―、
その都度、消していかなかったのは、何となく電話帳が埋め尽くされていると、友達が多いような気分にさせるからだ。
俺は自分の怠慢さを恨んだ。
そんな事を考えている間も、携帯電話からは『夏姫』という者(おそらく女の子)からの着信を知らせている。
俺は全く思い出せないものの、とりあえず、電話に出てみる事にした。