Storm -ただ "あなた" のもとへ-

どう自分の気持ちを整理すればいいのか、わからなかった。

雇用関係である以上、綺樹の誠実にそれを守ろうとしてくれる態度は有り難い。

なのに、だ。

それがとても煩わしい。

自分からは超えないけれど、綺樹には超えてきて欲しいと思う。

綺樹がちょっと動き、眉を寄せるとうなり声を上げた。


「どうした?」


顔を横に向けた拍子に、綺樹の閉じられた目からふっと涙が伝わり落ちた。

涼は見つめたまま手を伸ばし指で拭った。

そのまま指を髪に滑らせる。

このままキスするのは簡単だ。

綺樹も気づかない。

親指でそっと頬をなぜる。

以前どおり、柔らかな曲線を取り戻していた。

俺たちはどうしてこんなに距離が遠くなってしまったのだろうな。

手を離すと、涼は静かに立ち上がった。
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