Storm -ただ "あなた" のもとへ-
   *

いつも通りに綺樹は帰ってきた。


「メシ、出来てるぞ」


キッチンから、玄関に向かって涼は大声を出した。

フライパンから皿にソテーした魚を移そうとして、綺樹がキッチンのドアに寄り掛かっているのに気がついた。

綺樹は涼が顔を向けたのに、微笑した。


「一緒に、食べようか」


涼はそのままの姿勢で長く綺樹の顔を見つめていたが、綺樹の穏やかな微笑は消えなかった。


「わかった」


涼はそれが何を意味するか悟った。

しばらく手の動きが鈍くなったが、思い切るように息を吐くと、てきぱきと自分の食事も皿に盛り付けた。

しばらくぶりに、そしてこの家では初めて向かい合わせに座ったせいで妙に落ち着かず、無言で箸を動かす。


「知人がおまえの所で働いているみたいだ。
 この間、書類を届けにいったら再会した」

「うん」


その返事で綺樹が知っていることを知った。

知人では無いことも。


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