Storm -ただ "あなた" のもとへ-

綺樹は箸を置いてしまい、両肱をつくと炭酸水の入ったグラスを両手で挟むように持った。


「彼女。
 仕事に失敗して左遷されるらしい。
 なんでも信頼していた仲間にはめられて」


応答が無いのに涼は顔を上げた。

綺樹がじっと見つめていた。


「私じゃ、ないぞ」


涼は口の中の物を飲み込んだ。


「そんなこと、思ってもいない」


綺樹は微笑した。


「よかった。
 いくら何でも、私はそこまで姑息じゃないよ。
 いくらなんでも・・」


またなにやら呟くものだから、語尾が聞き取れなかった。


「なんだって?」


綺樹は黙って軽く頭をふった。

いくらなんでも恋敵を追い落とすのに。


「なんでもないよ」


涼はちらりと不審そうに見て、魚を箸でほぐす。
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