Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「おまえ、この頃」
あまり笑わないな。
言いかけて止めた。
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
今度は綺樹が不審そうに涼の顔を見た。
思いなおしたように綺樹はグラスを置いて、ポケットから紙を出すとテーブルの上に滑らせた。
「忘れない内に。
約束していた退職金」
涼はしばらく小切手の数字を凝視していた。
「どうした?」
綺樹は頬杖をつき、もう片手でグラスをとった。
「いや。
サンクス」
涼は手に取るとポケットに突っ込んだ。
「行きたい所までのチケット手配とか、グレースに言って」
「いい。
これだけもらったし、時間もあるしな。
のんびり行くよ」
「そうか」
綺樹はグラスを揺らしながら涼の食べる様を眺めていた。