Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「睡眠薬には手を出すなよ。
 また記憶がぶっとぶぞ。
 前回は俺のことだけだったし、短期間で戻ったらしいからいいけれど」


皿から顔を上げずに、さっぱりと言うのに綺樹は一瞬固まった。

記憶が直ぐ戻ったのに気が付いていたのか。

気が付いていながらも、あの他人行儀な友人関係だったのか。

離婚されたことを恨んでいるって言ったが、結局のところ、涼はその程度の関係しか望んでいないのだ。

時折会って、束の間、体を重ねるだけ。

その距離感がいいのだ。

突きつけられて、今更ながら愕然としている自分に笑いたくなる。


「体、大事にしろよ」


涼にはそれを言うだけが精一杯だった。

その台詞に綺樹の横顔が一瞬引きつれた。

だが一瞬後には微笑に摩り替わっていた。

そして綺樹はずっと微笑したままだった。
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