Storm -ただ "あなた" のもとへ-

咄嗟のことに綺樹は何も考えられず硬直した。

涼の視線が動き、綺樹を捉えるとしばらく見つめる。

微かに口元と目元が動き、微笑らしきものを形づくった。

そのまますとんと目蓋が落ちる。

意識を取り戻したことによって、看護婦達が慌ただしく動きだした。

邪魔になるから出ていった方がいい。

それでも動けずに、しばらく何も考えず顔を見つめていた。

医者に促されて綺樹はやっと立ち上がる。

そっと指を絡めた。

暖かい。

大丈夫。

綺樹は断ち切るように勢いよく踵を返した。


「グレース。
 あなたは少しここに残って涼がいい治療を受けていられるように見ていて」

「わかりました」


綺樹は足早に病院の廊下を歩きだした。

一つ、得をしたと思おう。

あれっきりと思っていたけれど、こうして会えたのだから。

引きずる時間が長くなったかもしれない。

でも、一目会い、幸せな気分を味わえたのだから。
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