Storm -ただ "あなた" のもとへ-
パーティで綺樹の持っている地位と金を目当てに男たちを相手に、全てをOFFにして相手にすることにも慣れて来た。
OFFにするのにアルコールは欠かせない。
幾度もワインのグラスに手を伸ばしていた。
男たちの向こうで、ボーイが通り過ぎようとするのを呼び止め、手にしているグラスを飲み干して次のを取ろうとした。
その肱を後から軽く捕まれる。
「飲みすぎだ」
耳元で低く言う日本語に綺樹はグラスを取り落とした。
「ああ、ばかだな。
染みになるぞ」
涼は床に落ちたグラスをボーイに渡し、かがみこんでドレスに跳ねた雫をハンカチで押える。
その姿勢のままで綺樹を見上げた。
「大丈夫か?」
綺樹は目を見開いたまま、涼を見下ろしていた。
ごくりと唾を飲み下す。
なぜここにいるのか。
少し長めの髪と、病み上がり特有のやつれた頬の線。
それに伊達眼鏡をしている涼は全く見慣れなかった。