Storm -ただ "あなた" のもとへ-

パーティで綺樹の持っている地位と金を目当てに男たちを相手に、全てをOFFにして相手にすることにも慣れて来た。

OFFにするのにアルコールは欠かせない。

幾度もワインのグラスに手を伸ばしていた。

男たちの向こうで、ボーイが通り過ぎようとするのを呼び止め、手にしているグラスを飲み干して次のを取ろうとした。

その肱を後から軽く捕まれる。


「飲みすぎだ」


耳元で低く言う日本語に綺樹はグラスを取り落とした。


「ああ、ばかだな。
 染みになるぞ」


涼は床に落ちたグラスをボーイに渡し、かがみこんでドレスに跳ねた雫をハンカチで押える。

その姿勢のままで綺樹を見上げた。


「大丈夫か?」


綺樹は目を見開いたまま、涼を見下ろしていた。

ごくりと唾を飲み下す。

なぜここにいるのか。

少し長めの髪と、病み上がり特有のやつれた頬の線。

それに伊達眼鏡をしている涼は全く見慣れなかった。
< 118 / 448 >

この作品をシェア

pagetop