Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「元気か?」
涼は身を起こすと微笑した。
綺樹はまぬけのように、ただ凝視していた。
涼はあごをちょっとバルコニーの方へ動かした。
「話があるんだけど、いいか?」
「え?」
かすかな声しか出ない。
涼は周囲の男たちににっこりと威圧的に笑うと、綺樹を輪から引きずり出す。
「ミズ」
途中でボーイに呼び止められ、我に返った綺樹は立ち止まった。
「そろそろ、お願いしたいとのことですが」
綺樹は涼へ顔を向けて涼の目を見てから、ボーイに戻した。
「今、行きます」
また涼へ振り返った。
「挨拶をしなければならないんだ」
「ああ。
じゃあ、終わったらな」
涼と離れて空気の濃度が戻る。
そばに現われるとすうっと吸い込まれそうになる。
その力はとても心地いいのだ。
麻薬みたいに。
綺樹は全身に回り始めた毒に、夢見るような微笑をちらりと浮かべた。