Storm -ただ "あなた" のもとへ-
涼は軽いため息を付くと、ボーイに先導されながら壇上へと歩いていく綺樹の背を、目で追っていた。
転々と旅を続けている合間に現れた時も思ったのだが、ちょっと離れた後に会うとその度毎に色っぽくなっている気がする。
あからさまではなくて、ふっと視線を下げた時の仕草などににじみ出てくる。
手が負えなくなってきているか?
口元に苦笑を浮かべた。
それは最初からだった。
もうひとつため息を付いた。
部屋の温度と人込みとでめまいを感じ、片手で首の後をぐっとつかみ目を閉じる。
落ち着いたアルトの声に涼も壇上の方へ顔を向けた。
マイクを手にして綺樹は大人しめの微笑を浮かべた。
クイ-ンズイングリッシュで短く挨拶を語ると壇上を降りた。
歩きだすと共に一人二人とまた男たちが囲みだし、とうとう綺樹はその場に足止めされる。
愛想笑いを浮かべ、失礼にならないように相手にしている内に、二人の間は人で互いの姿が見えなくなった。