Storm -ただ "あなた" のもとへ-
ユーリーは優雅に壁へ歩くと剣を戻した。

先を歩くフェリックスの耳に、ユーリーと綺樹がシベリウスのバイオリン協奏曲について話し合っているのが聞こえてくる。

ユーリーの十八番の曲だ。

綺樹がユーリーの演奏を気に入っているのは知っていた。

そして会わせれば、その性格も気に入るだろうことも予想していた。

だからユーリーから電話がかかってきたときに、躊躇なくOKした。

なんらかの気晴らしが必要だ。

今のこの女には。


「シャワー浴びてくる。
 先に書斎で仕事をしていろ」


綺樹は肩をすくめてユーリーを見上げた。


「聞いたか?
 まったく、どっちが当主かわかりゃしないよな。
 はいはい」


手をひらひら振って、ユーリーに引き続きフェリックスについての文句を並べながら、歩いていった。

廊下の角を曲がり際、ユーリーが一瞬、こっちを向いた。

にやっと笑う。

この友人は妙に勘がいい。

ここの滞在に躊躇なくOKしても、それだけが気がかりだった。

もう感づいたらしい。

フェリックスは無表情のまま、自分のバスルームに入った。
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