Storm -ただ "あなた" のもとへ-

    *

ある朝、明るさを感じた。

その少し前から、耳の方は音を感じるようになっていた。


「鼓膜の回復は早いからな」


フェリックスの言葉も聞こえるようになっていた。

自分の体内の音が聞こえた時の安堵感は、忘れられないだろう。

これで外界とやっと繋がりが戻ってきたのだ。

しかし人間とは凄い。


「なにが?」


フェリックスは愛想なく聞いた。


「眼と耳が聞こえなくなったとき、何が発達したと思う?」

「嗅覚だろう」

「そりゃ医者にとっては当然のことなんだろうが、私たち一般人には驚きなんだよ。
 こういう体験は中々しないから」

「中々じゃない。
 全く、だ。
 そうそうしてもらったら困る」


綺樹は肩をすくめた。


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