Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「手だって、どうにか腐らずに済みそうだし」
「ああ。
やはり元のとは相性がいいな。
生きがよかったしな。
ちゃんとリハビリはやるように。
すぐに元通りには動かない」
綺樹はちょっと安心して微笑した。
フェリックスは前と変わらなかった。
綺樹の視力と聴力が戻るにつれ、触れ合いは少なくなっていっていた。
最初にキスが無くなり、そして添い寝が無くなった。
今は以前のように、冷ややかで皮肉屋な当主補佐だ。
その方がやり易くてありがたかった。
肌で感じていたような優しさと思いやりが具現化していたら、元に戻ってきた綺樹はどう振舞っていいのかわからなかった。
「さて、じゃあ大人しくしていろよ」
朝の検診を終え、フェリックスは仕事をしに行こうとしていた。
「いつでも大人しいじゃないか」
「寝言は寝て言え」
捨て台詞を残してドアが閉まった。