Storm -ただ "あなた" のもとへ-
フェリックスは身振りですぐ行くことを伝えた。
ドアが閉まる。
執事に外出を取りやめることを伝え、電話を一本かけた。
そして綺樹の部屋のドアを叩いた。
綺樹はグラスを片手にソファーの背に立ったまま寄りかかっていた。
低くジャズのスタンダードナンバーがかかっている。
「なんだ?」
綺樹は無言で背を向けると、暖炉の側へ寄ってしまった。
もう寝ていてもいい時間なのにも関わらず、洋服を着ている。
緊張しているのに、それを押さえつけているので無表情のようだった。
「夜と音楽。
残念ながら相手が違ったな」
流れている曲に合わせて、軽口を叩く。
目を上げると綺樹が暖炉を背にし、こちらをじっと見つめていた。
「フェリックス。
今からどこへ行くつもりだった?」
フェリックスは少し首を傾げ、目を細めて斜めに見る。
「おまえに関係あるか?」
「ない」
綺樹は顔を背け、再び歩き出した。
ふっと息を吐く。