Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「当主の私が醜聞塗れなのを、精錬潔白で有能なおまえが御する。
 それで血縁でもないお前が代理についていることを、一族に納得させているんじゃないの?
 おまえの台本はそうだろう?」

「一族が」


 フェリックスは天井と壁の境目に眼を上げた。


「この位のことで、敵には回りはしない」

「まだ、な。
 だが一族は一枚岩ではない。
 沈没しかけたウルゴイティを救うため、止む無しに賛同した者も多いんだ。
 血縁で無いおまえたちが、力を持ち始めていることが面白くない奴も多い」


フェリックスとその家族。

その方向へは話を向けたくない。

フェリックスは肩をすくめて、コンソールテーブルに置いてある水差しからグラスに水を注いだ。


「フィー」


綺樹がこう呼ぶのは初めてだった。

何か違う扉が開こうとしていた。


「なぜ。
 恋人を持たないんだ?
 結婚しない?」

「仕事でそれどころじゃない」


開こうとしている扉にフェリックスは一抹の恐れを感じて、早口に答えた。
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