Storm -ただ "あなた" のもとへ-
*
くそう。
綺樹は自分の両腕を見た。
骨を砕くのではないかと思う力で握られた、手首の少し上にあざが出来ている。
さすがに繋いだ所は避けたようだ。
鏡で見ると二の腕にもあざが出来ていた。
首筋には血がにじんでいる。
いくらなんでも乱暴すぎないか。
綺樹はバスルームから寝室に戻った。
フェリックスはうつぶせになったまま眠っていた。
隣にもぐりこんで穏やかなフェリックスの寝顔を見つめる。
感触は戻っているが、動きの鈍い指を髪に滑らせた。
フェリックスが少し眼を開けた。
穏やかな表情が一瞬の内に引き締まる。
「安心しろ。夜明け前には帰る」
綺樹はもう一度髪に触れた。
「いいよ。
噂が流れたほうがいい」
静かに言うと、フェリックスは寝返りを打って仰向けになった。
「どうした?」
ため息混じりに問い掛ける。
「どうしてこうなることが、おまえのためになるんだ?」
綺樹は何も言わずにシーツの中に横になった。