Storm -ただ "あなた" のもとへ-

   *

くそう。

綺樹は自分の両腕を見た。

骨を砕くのではないかと思う力で握られた、手首の少し上にあざが出来ている。

さすがに繋いだ所は避けたようだ。

鏡で見ると二の腕にもあざが出来ていた。

首筋には血がにじんでいる。

いくらなんでも乱暴すぎないか。

綺樹はバスルームから寝室に戻った。

フェリックスはうつぶせになったまま眠っていた。

隣にもぐりこんで穏やかなフェリックスの寝顔を見つめる。

感触は戻っているが、動きの鈍い指を髪に滑らせた。

フェリックスが少し眼を開けた。

穏やかな表情が一瞬の内に引き締まる。


「安心しろ。夜明け前には帰る」


綺樹はもう一度髪に触れた。


「いいよ。
 噂が流れたほうがいい」


静かに言うと、フェリックスは寝返りを打って仰向けになった。


「どうした?」


ため息混じりに問い掛ける。


「どうしてこうなることが、おまえのためになるんだ?」


綺樹は何も言わずにシーツの中に横になった。
< 153 / 448 >

この作品をシェア

pagetop