Storm -ただ "あなた" のもとへ-
「一度私のために生活を変えようとして、結果はああだったから、もう繰り返したくは無い」
綺樹はフェリックスへ視線を移した。
一瞬くちびるをぎゅっと結んだ。
「大事だから」
窓の方へ顔をそむけて、しばらく木を見ていたが再びフェリックスを見つめた。
ひどく真剣な眼差しだった。
「そして、おまえも。
大事なんだ」
フェリックスは皮肉な笑いを一瞬くちびるに浮かべた。
綺樹も自分の言葉の信憑性に欠けると思って薄く笑った。
「本当だよ。
私自身より」
小さく呟くように言葉を足した。
「ただ」
綺樹は首を少し傾げた。
「おまえは用心深い。
立場上、慣れているし、相応の身の振り方が出来る。
そういう目には合わないだろう。
そして、この世界と仕事が好きだ。
だから、安心して側にいられる。
唯一」
フェリックスは自分が息を詰めているのに気が付いた。