Storm -ただ "あなた" のもとへ-
そんな話は聞きたくなかった。
涼への思いの深さを再確認できれば十分だった。
そうすれば直ぐにでも綺樹へ見切りがつけられると踏んだのだ。
「フェリックス?」
床に視線を落としていたが、フェリックスは綺樹と目を合わせた。
「全く、聞きたくない話だな」
「そうだろうな」
綺樹の瞳が翳ったのに、フェリックスはふっと笑って書斎へ戻った。
両手をポケットに突っ込んだまま、机の傍らに立ち、窓の外を眺める。
その通りだ。
今の状況で、安心して側にいられるのは自分の隣だ。
だが何も事情を知らず、邪念もなく、信頼しきって言わないで欲しかった。
なぜいつものように、物事を斜に見て、皮肉的に考えないのだ。
おまえも、大事なんだ。
綺樹の声がリプレイする。
フェリックスは机上にあるカレンダーをしばらく見下ろし、また窓に顔を戻すと、長いことそのままでいた。