Storm -ただ "あなた" のもとへ-
綺樹は体をかえして、フェリックスのローブを肩から落とした。
なぜこの女なのか。
フェリックスは綺樹の上に乗って肌にくちびるを這わせた。
なぜ他人の女なのか。
髪に顔をうずめ、耳をたどって、頬からくちびるを合わせる。
手に入らない・・・。
不意に背中にあった綺樹の手が落ちていることに気づいた。
綺樹と目が合う。
危惧している目だった。
心底、こちらを心配している目だった。
フェリックスは急に我に帰った。
自分の左手の親指が綺樹の喉笛を力一杯押さえ込んでいる。
上体を飛び起こして指を離すと、ひゅっと音がして綺樹は自分の体を抱え込むよ
うにして咳き込みだした。
割れるような咳の音。
フェリックスは呆然として見下ろしていた。